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※イラストは某絵掲サイトにてQサマの線画に塗り・加筆させて頂いたモノです。
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化学変化の仮定と過程
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小説お題

【冒頭】 「馬鹿。戦争に約束や義務があるか。だいいち逃げ場が無い」
【末尾】 いつの間にか、無数の星が天を満たしていた。




馬鹿。戦争に約束や義務があるか。だいいち逃げ場がない」
吐き捨てるように、隆之は言った。

「兄貴にはわかんねぇよ」

それから隆之は乱暴に音を立てながら階段を駆け上がり、自室へと消えて行った。

 

 

 

…『戦争』。その言葉の真意を測りかねたが、ここ最近の弟は変わった。そう思いながら智之はリビングへと向かった。同じ県立の高校へ通う、たった1歳違いの兄弟。両親は共働き、幼い頃から2人で過ごす時間が多かった。それだけに、使うものから遊び道具までほとんどがお互いの物であったし、考えている事でさえ表情を見ればすぐに解った。智之はただ、自分の後ろにくっついて離れない弟を、兄として、守り助けようと過ごしてきた。それが、智之の両親との約束であり義務であった。

 その弟が、何かおかしい。智之はため息をつく。何が、と言われると具体的にどうとは言えないのだが、今まで感じたことの無い違和感が2人の間に流れていた。

 とは言え、もうお互い高校生だ。何もかも同じ、などということはありえない。第一、いい加減にプライバシーというものもあるだろう。踏み込める位置、踏み込ませる範囲の判断くらいはできる年齢だ。それでも、大事な弟だった。

 智之はソファに仰向けに倒れこみ、天井を見上げる。蛍光灯の周りを小さな虫が2匹飛び回っていた。

『お前最近なんか変だな』『もっとシャキっとしろ』『男らしく胸張れよ』『兄貴なんだから、何かあったなら俺に言えよ』『どうせ大した事ねぇんだろ』

先程、隆之に投げかけた言葉を反芻しながら、智之は寝返りを打つ。最近減ったとは言え、昔からよく自分が口にし続けた言葉が、初めて拒否された。最近、ロクに口も利いていなかったというのに。

「ま、何でもいいか。あいつだって、何かあれば言ってくるさ」

独り言は、刻一刻と暗くなっていく窓の向こうへと吸い込まれていった。

 

 

 

 隆之は、制服を着替え机に向かった。いつものように机の袖にある1番上の引き出しの鍵をあける。取り出したのはナイフだった。少し前、露店とでもいうのだろうか、道端に怪しげな品を広げた男から買ったものだ。

 しばらくそれを繁々と眺めたあと、そっと自分の手首に押し当てる。少しでも力を入れれば、その鋭利な刃は隆之の肉を裂くだろう。何度かそれを繰り返す。蛍光灯の明かりがギラギラとナイフに反射し、隆之は目を細める。ただ、本気ではない。

 兄貴は、と隆之は考える。自分の異変に気付いているような素振りだった。だが詳細までは知らないだろう。いや、知られたくない。

 ナイフを鞘に収めベッドへと放り、自分もその隣に倒れこむ。昔はよく両親のベッドに2人で寝転がって遊んでいたな、と思い出す。あの頃は兄の智之が自分を守ってくれていた。子供だった2人にそんな意識があったとは思えないが、智之は口癖のように言っていた。『男なんだからしっかりしろよ』『何かあったら俺に言えよ』。それが2人の約束だった。そして、その通りにするのが弟である自分の義務だった。

開け放しの窓からは秋口の涼しい風が吹き込んでいた。隆之はナイフを抱え込むように寝返りを打つ。ここ最近は言葉を交わすことも殆ど無かったが、まさか自分が兄をバカ呼ばわりする日が来ようとは、夢にも思わなかったが。

「逃げ場はあるさ、どうにもならなくなったらな」

ナイフがゴツゴツと身体に当たる感触を確かめるように、隆之は目を閉じた。

 

 

 

 「隆之、先に行くからな」

智之は階上へと声をかけ、玄関を出る。今日も憎々しいまでの残暑だ。登校時間だというのに、既に太陽がアスファルトを焦がしていた。外へ出ると同時に吹き出した汗を、拳でぬぐいながら学校までの道を、ゆっくりと歩く。自転車で追い越していく友人達に軽く手を上げながら、それでも歩調は変えない。昔からのクセだった。歩くのが遅い弟のため。

隆之が入学したてのころは、よく一緒に登校したものだった。それがいつしか間遠になり、だんだんとこの道を1人で歩くことが多くなった。今ではもう、肩を並べて歩くことも無い。それが当たり前になっていた。

学校の手前のバス停で、智之は歩みを止める。これもいつの間にか当たり前になった日課。

智之はバスから降りる人波に目を凝らす。並木で日陰になったバスから、日向へと降り立つ学生達は皆華やいで見えた。と、その中から1人の女子高生が飛び出してきた。

「おはよ~!!」

晴美だ。猛烈な押しに負けて、仕方なしに付き合いはじめた、同じクラスの生徒だった。

「ねぇねぇ、昨日アレ見た~?」

お決まりの会話。晴美の口からは、毎朝テレビ番組の話が当然のように発せられる。智之は晴美のマシンガントークに適当に相槌を打ちながら、今度は晴美と学校に向かい始める。

 『そんな話なら、誰とでもできんだよ』

付き合い始めてから何度目だろうか、そんな事を考えながら下らないドラマの感想を受け流していた智之だったが、

「あ~、アレ、弟君じゃない?」

という晴美の言葉に、つられて後を振り返った。まだ遠かったが、確かに隆之だった。智之は思わず晴美に言う。

「あいつ、元気無いような気がしないか?」

何度か隆之と鉢合わせた事のある晴美も、もしかしたらそう感じるかもしれないと期待したのだが、その期待は大きく裏切られた。

「え~、そんなのハルミわかんないし。それよりさぁ、今日の帰り買い物付き合ってよ~」

晴美に手を引っ張られ、智之は仕方なく視線を前へと戻し、面倒くさそうに解った、とだけ呟いた。嬉しそうな晴美を横に、智之は背後が気になっていた。だが、これ以上隆之を話題にしたところで、晴美からは、そんな歳でもないだろうと流されるのが関の山だ。智之はそれ以上何も言わなかった。

 

 

 

 隆之は前方を歩く、兄とその彼女とを眺めながら歩いていた。先程こちらを振り返ったように見えたが、気付かなかったのかもしれない。校門へと消えていく兄の背中を追うようにゆっくりと歩いていると、背後から声がかかった。ぼうっとしていた隆之は一瞬身体を硬くした。

「よう、お前は本当に歩くのが遅ぇなぁ」と、肩を掴まれる。

同じ学年の生徒だった。

「結構前の方歩いてたのによ、もう追い付いちまったじゃねぇか」

別な生徒が、反対側の肩に手をかける。2人とも隆之に寄りかかり、まるで自分達を運ばせるかのような体でダラダラと歩き始めた。

 隆之は胸の内で深くため息をついた。今日も良くない1日のスタートだ…その予感は的中し、1人が隆之に言った。

「なぁ、もう面倒だから学校行くのやめてゲーセンでも行こうぜ」

「お、いいね!!行っとく?」

もう1人が合いの手を入れるように、そのアイディアに乗った。

「じゃ、けってぇ~。いつもんとこ行くぞ、隆之」

先ほどまでは寄りかかられていた両肩が、今度は連行されるかのようにグイグイと引っ張られる。隆之は「わかった、わかったから離せよ」と、それを振り払う。『またか…』生徒達が離れたお陰で、両側に風が通ったような気さえする残暑の中、隆之は特に2人の話に関心を持つでもなく、ただ彼らの目的地へと向かう。

 その間中、2人は隆之の前を歩きながら、下らない馬鹿話を繰り広げていたが、隆之は憂鬱になる一方だった。隆之が従うのを良い事に、彼らにこうして引き連れまわされ、ゲームセンターへの道を辿るのは何度目だろうか。

どうして自分は、兄のように器用にいられないのだろう。歩くのが遅いのもそうだが、いつまでも智之に心配されているのも、いい加減恰好が悪い。両親からはいつも兄と比べられていた。

そんな状態も手伝い、いつまでも兄弟でいる気恥ずかしさと胸糞の悪さから、兄との登校時間をずらしもした。昨晩突然、智之に小さい頃と全く同じ言葉をかけられ、正直ムッとした。だが、それと同時に、縋りたいような、助けてもらえるような、そんな気もした。だからと言って、最後の逃げ場を兄にはしたくなかった。

 『俺にだって、俺のプライドってもんがある』隆之は拳を握り締めた。

既にゲームセンターは目前だった。『俺はもう兄貴が居なくたって独りで戦える。守ってもらうなんて、ゴメンだ』…そう考えたところで顔をあげると、2人の生徒達がちょうど立ち止まり、隆之の顔をニヤニヤしながら覗き込んだところだった。

「隆之く~ん、俺、今日もお金持ってないんだよね~。またお金貸してよ~」

「今日は幾ら持ってるのかな~?返すのはいつでもいいよね~」

 

隆之はそれを聞くや目の前が真っ赤になった。

これ以上、自分の小さなプライドを失わない為…。

気がつくと、握っていた拳をそのうち1人の顔に叩き込んでいた。

 

 

 

 智之は、窓際にある自分の席でウトウトとしていた。残暑とは言え、開け放した窓から教室へと吹き込む昼過ぎの風は、意外と心地が良かった。時折、前の方に座っている晴美が後を向いて手を振ったり笑いかけてくる他に、案外に勉強のできる智之にとって面倒なことなど特に何も無かったし、窓にもたれて舟を漕ぐにはもってこいの日和だった。それだけに、静かだった教室のドアが放つけたたましい音に、智之は腰を浮かせるほど驚いた。それはクラスメイト達、更には授業を担当していた教師も同じで、誰もが息を呑んでその音をたてた部外者を凝視していた。

慌てた様子の教師は授業の中断を詫びることもせず、一瞬室内を見渡した。誰かを探しているようだ。自分ではないだろうからと素知らぬ顔をしていた智之と、最後に目が合った。走ってきたのだろう、息を切らしたその教師は、智之から視線を外そうともせずに、咳き込むように口を開いた。

「お前の弟が…」

 

 その瞬間、智之は教室を飛び出していた。「中央病院だぞ!!」という教師の声を背中に、とにかく隆之への連絡をと携帯を手にしたが、それと同時に、こちらがかけるのを許さぬようにひっきりなしに鳴り始めた。両親が、代わる代わる何とか連絡をとろうとしているのだろうが、それぞれが必死になっているせいか携帯はパンク状態だった。使い物にならない電話は諦め、昇降口を上履きのまま駆け抜け、学校前の通りを病院の方角へと曲がる。

 走る智之の視界の端を、街や民家が過ぎ去っていく。それと一緒に頭の中を色々な考えが過ぎった。『一体隆之に何が起こった?』そこから渦のように、幼い頃の2人の約束、昨晩のやりとり、そして滅茶苦茶な感情の波が押し寄せてきたが、払いのけるように走り続けた。

中央病院は、昼過ぎだというのに混み合っていた。ロビーで数人とぶつかりながらも、受付で、まごつく事務員を急かして病室を聞き出す。『302号室…』エレベーターを待ちきれず、階段を数段飛ばしに駆け上がる。その時間が永遠の様に思えた。

 

302号室。智之は汗だくでその病室へたどり着いた。警官2人と、付き添ってきてくれたという、通報者の男性。駅前のゲームセンターの制服を着ている。

 一度も休まずに来たせいで、呼吸が激しく胸が苦しかった。それをとにかく鎮めようと大きく深呼吸をし、話をしようと近付く警官や店員を、「邪魔だ」と、押しのけるようにして病室の引き戸をひいた。

 弟は、包帯と点滴のチューブに囚われて、ベッドに横たわっていた。息を殺して耳を澄ますと静かな呼吸音が聞こえる。

隆之は、無事だった。

 

 

 

 初めて拳で感じた人間の顔面は、意外と簡単に骨が砕けた。初めての隆之の反撃に驚き、顔を抑えて尻餅をついた1人を見て、もう1人の生徒が逆上して殴りかかってきたが、隆之は無我夢中で戦っていた。何度も何度も、鳩尾へのヒットを喰らい、それでも必死で立ち上がった。

 鼻血を拭いながら立ち上がった生徒もそれに加わり、隆之はついに意識が遠くなっていくのを感じた。それでも、掠れる喉を目一杯に開き、血の味のする口で声の限り叫び、抵抗し続けた。

 

「誰がお前らなんかに…いつまでも俺が逃げてばかりだと思うなよ…!ナイフなんかいらねぇ、俺のプライドにかけて、宣戦布告してやる!!」

 

 隆之は、自分の大声に気が付いて、ビクリとして目を見開いた。拳が痛い…いや、拳だけではない。体中が火に焼かれるように痛い。段々とその痛みの理由を理解する。自分が憶えている最後は、花が咲いた様な血痕の広がる地面がコマ送りの様に鼻先に近付いてくるのと、誰かの大声が随分遠くで聞こえたことだけだった。ここは何処なのだろうか。薄暗いようだが、あれからどの位経ったのだろうか……ハッキリしない頭で考えをまとめようとしていると、ボソリと低い声がした。

 

「そうだったのか」

 

兄の智之だった。窓際のベッドに腰掛けた兄は、疲れ切って見えた。きっと、隆之の眠りながらの主張を聞いていたに違いない。暫くして、弟の隆之は答えた。

 

「俺は俺から、逃げたくないと思ったんだ」

 

随分長いこと兄は黙っていた。全ては聞くまい、それが弟の内なる戦争だったのだと、智之は妙に納得していた。結局仕事だ何だと理由をこじ付け、病院にすら未だ訪れぬ両親を待つことは既に諦めていた。ただじっと、自責の念を持ったまま椅子に座ったきりだったが、弟の言葉によってその後悔への答えが開けた。

弟に馬鹿呼ばわりされた兄と、兄を馬鹿呼ばわりした弟は、結局いつもと同じように2人きりだったが、流れる空気は何かが変わっていた。

 

「お前は逃げなかったし、あいつらに1人で立ち向かったんだ。もう心配なんかしなくても、お前は大丈夫だったんだな」

 

気付けなかった事への無念の表情はしていたが、それは安堵するような声だった。兄もまた、弟への義務を感じていたのだろう。その兄にかかっていた圧力を始めて弟は感じた。

 

 

 

「兄貴、俺早く歩くからさ、今度また学校一緒に行こうぜ」

 

智之は「そうだな」と、笑いながら窓の外を見た。つられて孝之もベッドから窓を見上げる。

 

 

 

いつの間にか、無数の星が天を満たしていた。



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