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※イラストは某絵掲サイトにてQサマの線画に塗り・加筆させて頂いたモノです。
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化学変化の仮定と過程
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小説お題
【冒頭】仮の時間を与えられただけだったのだ。
【末尾】これからの時間がただそうやって過ぎていくことにどんな問題があるというのだろう。


『仮の時間を与えられただけだったのだ』
静かに瞼を落とすと、元から遮られていた視界は、完全な闇となる…



 小木(オギ)は壁に埋め込まれている小さなモニターを眺める。1人の男が、目を瞑ったままじっと座っているそのモニターを。映し出されているその殺風景な一室を、ただ見つめているだけが、小木の今日の仕事だった。
 男は、先程から微動だにせず簡易ベッドに座り続けている。既に朝食を終えてから1時間余。つまり、小木も同じく1時間余を、ただぼんやりとモニターを眺めていることになる。何かをしようにも、目を離してはいけないのだ。場慣れしている同僚には、デスクワークと並行させる者も居るが、この仕事に関しては、一時でも目を離すのは憚られる…小木はそう思っていた。

 男に、少し動きがある。小木は画面に食い入るようにそれを見る。どうやら排泄のようだ。そればかりは何度見ても慣れることは無かったし、どちらかというとそれを覗き見る嫌悪すらあったが、それでも目は離さない。何せ、“見ている”ことが仕事なのだ。それに、好奇心が全く無いわけではない。男は立ち上がり、部屋の隅にある便器へと向かう。数秒の後、着衣を整え、また同じようにベッドへと腰を降ろす。そして目を瞑る。
小木は画面へ乗り出すようにしていた体を、折畳み式の椅子へと落ち着ける。
『それにしても堅い椅子だ…』就業後何度目かの感想。どうせ長時間座らせておくのなら、もっと座り心地のいい椅子を用意してくれても良いものだが。これでは、あの簡易ベッドと変わらない。それとも、こうやって監視される側の人間と同調させたいのだろうか…自分の居るこの狭い部屋にも、同じようにカメラがあるのではないか…と、一瞬背筋が凍りつく。こうしている今、自分も誰かに監視されているのではないか…そんな考えは寄寓に過ぎないのだが、この待遇の悪さでは仕方が無い。身の緊張を解き、既に見開き続けて疲労を覚える眼を軽く擦ると、小木は再び身を入れて何も変わらないと解っているモニターへと集中した。
 小木にとってこの時間は、好奇心を満たし、同調から他人へと成り代わる、仮想の時間だった。


 
 菅井(スガイ)は、長く伸びたリノウムの床を鳴らしながら、特に何を考えるでもなく歩いていた。このフロアに、菅井が責任を持つべき部屋は1つしかない。
その前を定刻通りに往復するだけが、今日の彼の仕事だった。床から壁まで真っ白なその廊下は、菅井には永遠に続くもののように感じる。たった、数十メートルの距離を歩くには、ゆっくりと往復しても2分とかからない。一応、ただ歩くわけではなく、その部屋の中をチラリと覗くことにはなっている。いや、実際はきちんと様子を確認しなければならないのだが、責任を持つべき部屋の住人は、先程の定刻確認の時と相変わらず、眼を閉じて簡易ベッドに腰掛け続けている。2、3日前にこの仕事をした時もそうだった。

むしろ、ここ半年の間ずっと変わらないのだから、ある意味大したものである。そのせいで、定刻確認とは言いつつ、この仕事は実の無い一辺通りの反復作業と化していた。それに菅井が確認するまでもなく、今日であれば今頃、小木が穴の空くほどモニターを見ているのだろう。それでも、“歩き、確認する”のが菅井の仕事なのだ。ただ黙々と、実際よりも長く感じられる廊下を往復し、往きと帰りの2回、部屋の中をチラリと覗き、詰め所へと戻る。
 『今回も異常無し…か』いつもと同じ結果。戻りながら菅井は思う。これだけ静かで穏やかな空気は、他でもなく、あの男から発せられている。それはこの廊下を歩くたびに肌で感じていた。男にこれと言って感謝するわけでもないが、“何も無い時間”が、日々を辛く感じる菅井にとって、何物にも変え難い時間になっていた。通常勤務で表に出ているよりも、余程平常心を保てるのは、実はあの男のお陰なのかもしれない。菅井は事務机に向かい、いつもと同じ“異常無し”の文句を書き付ける為に日誌を広げた。
 菅井にとってこの時間は、何も起こらないという保証付きの、癒しの時間だった。



田上(タガミ)は、窓を背にした大きな背もたれのついた革張り椅子に深く座り、提出されている日誌や報告書に目を通していた。
どれも1日に行われた作業や、時刻に沿った活動が記入され、整然とした事務的な文字が並んでいる。ごくたまに、多少問題ある仕事中の喧嘩や違反などの報告も見受けられたが、特に取り上げるほどのものでもない。このくらいの事なら、ここでは当たり前の事なのだ。
次に田上は朝刊を広げた。新聞は毎日、早朝勤務の者によって田上の机上に届けられている。先程まで読んでいた報告書に併せて、読売・朝日・毎日の三大紙と地元紙1部に、毎朝夕必ず目を通すのが田上の仕事…いや、日課でもある。
それらの新聞全てを、一言一句逃がすまいと、田上は紙面に顔を近づけて隅々まで目をやる。このところ老眼にでもなったのだろうか、少し見え辛くなった気もしていた。しかし、紙上はそんな田上の視力事情にお構い無く、世間を騒がす強盗事件から地域の放火と見られる小火情報、議員の違法計上、イベント情報まで、小さな活字で実に様々に書き立てていた。

『そういえば、もうあの事件は触れられてはいないのだな…』田上は読み終えた新聞を雑に折り畳んで少し離れたソファの上に投げる。次の新聞を手に取りながら、つい数ヶ月前まで新聞に限らずメディアを賑わせていた事件に思いを巡らせた。
--【復讐劇】・【仇討ち】--
昨今、最早時代遅れとなるようなキャッチコピーが、ずらりとメディアに勢揃いした、あの事件……確か、今年の初めだったはずだ。それから犯人が逮捕され、裁判が開かれ…今年はもう終わろうとしている。あれほど世間が大騒ぎした被害者10余名にものぼる事件が、今や過去の1頁だ。それほど時代が流れるのは早い。まだまだここでは若手と呼ばれる小木や菅井でさえ、着任してから既に2,3年は経つのだ。当たり前の事なのかもしれない。
いつも通りに全ての新聞を読み終えると、田上はいつも1番最後に目を通している、先程まで読んでいたものとは別の報告ファイルを取り上げた。
それは、広げても特に何の意味も持たない。何故なら、『何も無い』のが当たり前の日誌であるからだ。いや、当たり前でなくてはならない。勿論今日も、何も無かった。あの男が来てからというもの、自分はこの仕事の責任をまっとうできている…田上は安堵し、ファイルをそっと机上に戻すと、やっと一息とばかりに、煙草へと火をつけた。ここの始業時間は案外に早い。田上の朝の業務は、9時前に終了した。
田上にとってこの時間は、自分の地位や立場を安泰にしておく為の、再確認の時間だった。



加賀屋(カガヤ)は雪の中、数人の男と車に揺られていた。後部座席に深々と座り、口を堅く結んだまま一言も発さぬまま目的地は迫っていた。それは同乗の男も同じで、車内は重苦しい雰囲気に包まれていた。
もともと陽気な性格の加賀屋だったが、この仕事が入る日は必ず、見る影も無いほどに陰鬱な表情を漂わせるのが常だった。とは言え、人生にそう何度もある仕事ではない。もう既に引退している先輩にはこう言われた。
『この仕事が入った日には、派遣にでも行くつもりで…』
それを思い出し、加賀屋は更に両の肩が重くなり、座席に埋められるような錯覚を起こし、焦りを隠すように思わず咳払いをした。同乗の男がピクリと眉を上げたが、相変わらずの車内には、エンジンとエアコンの入り混じる音だけが響いていた。
と、車が速度を落とした。どうやら到着らしい。運転手が窓を開けると、車内に雪が舞い込む。寒冷地仕様の車内に降り立つ雪は、接地するそばからその輪郭を消して行った。
ふと気がつくと、建物の入り口に立っていた職員が目的を尋ねようと近付いてきていたが、面倒くさそうに運転手が見せた書類にハッとし、無言で屋内の別な職員に開門するよう合図を送る。目当ての“屋敷”は、沈黙と威嚇の表情で加賀屋を迎えた。

『今日の勤務は…小木と菅井か…』加賀屋は、勤務に当たっている職員の札を一瞥した後、ある一室へ向かう。無機質な扉の並ぶ廊下に対し、目指す部屋の扉は木造であった。加賀屋はその扉を一応ノックしたものの、返事も待たずに押し開け、滑り込むように入室した。
 突然の事に驚いているこの部屋の主……田上は、加賀屋の姿を認めると、驚きで見開いていた目をゆっくりと伏せ、「来たのか…」と、誰にともなく一言呟いた。
「ええ」加賀屋は短く答える。「お願いします…」
たったこれだけの会話。たったこれだけの仕事。服装を整え始めた田上を眺めながら、加賀屋は別世界にでも居るような感覚に囚われていた。その加賀屋の目の前で、田上は小木と菅井、それから2人ばかりを電話で呼びつけた。その面々に、加賀屋が同行してきた男達の中から数人が加わる。どれも屈強そうな男ばかりだ。
数分で、全員が揃った。まるで映画でも観ているかのように、加賀屋の意識はこの事実に対応しきれずにいた。今からこの男達は、急遽与えられた仕事をこなす為に、加賀屋の居るこの部屋を出て行く。持参した封書を田上に手渡した時点で加賀屋の仕事は終わった。規定通りに田上による短い確認が行われ、その存在を忘れたかのように、彼らは加賀屋に目もくれずに去って行った。残された加賀屋はじっと息を潜める。発端は何にせよ、加賀屋の到着によって引き金は引かれた。
加賀屋にとってこの時間は、認めたくない事実を無かったことにする為の、逃避の時間だった。





 男は、自分を取り巻く空気の違いを敏感に感じ取っていた。いつものように瞑想を始めてからすでに2,3時間は経ったはずだ。静かな、少々緊張感を伴う他人の視線はどこにもなく、どこか鋭い空気の流れを感じる。
 尻の下にある堅い簡易ベッドの感触は、初日こそ痛みはしたが、既に麻痺して感覚など無いも同然となっていた。目は閉じたままであったが、もうだいぶ前から外界を見ることに興味など無くなっていた。世俗の喧騒を目にするくらいなら、盲である方が幸せ…とは誰の言葉であっただろうか。
 監視されるという、ここでの仕事も甘んじて受け入れた。むしろそれは男にとって気にも止まらない、些細な事だったのだが。
 細く目を開けると、塞がれて小さくなった窓から僅かに見える白い光景が、無感動に男の目の隙間を刺した。それは始まるでも終わるでもなく、どこまでも続く男の空(カラ)の心と同じだった。

 突然、部屋の扉が開錠される音が室内に響いた。特に驚くでもなく男は立ち上がると、入ってきた男達を出迎えるように扉へと身体を向けた。田上をはじめ、小木、菅井、加賀屋とやって来た者…もちろん男が彼らの名前を知る由もないが、ただ、自分を連れて行こうとしていることだけは知っていた。静かに一歩、踏み出す。男のここでの仕事は、終わろうとしていた。

 連れて行かれた部屋で、男は紙とペンとを手渡され、机を使うよう指示された。言うなればこの仕事を終える為の誓約書への署名であり、兼ねてから男が希望していた事でもあった。寒さで鈍った神経をどれだけ集中させても、久しぶりに握るペンはなかなか言う事を聞かなかったが、それでも男はしっかりとペンを握り、立ったまま机に向かって一字一字を丁寧に書き込んだ。
 それが済むと、田上が男の前に立った。男は、先程の作業以外は何も希望しなかった為、全ての手順は省かれていた。
加賀屋の運んできた書類の封を切り、田上は重々しく抑制した声で、男に言い聞かせるようにその文面を読み上げる。

「死刑執行指揮書-……」

 拘置所長の田上は、長い陳述を読み終えると小木と菅井を顎で促した。他数人の刑務官達によって、男は壇上の椅子に座らされ、素早く手足を拘束された。そして、黒い布を頭にかぶせられ、最後に首にロープをかけられる。
視界を遮られるのと同時に、布の内側の黒い闇をスクリーンに、悲痛な叫びを上げ、恐怖で顔を歪ませながら死んで逝った者達の顔が浮かんでは消えて行った。その回想に過ぎない映像は、過去へ過去へと遡っていく。全部で13人…その死に様のどれをも鮮明に思い出すことができた。

そして、唯一愛した女、マリ…彼女だけは、その映像の中で美しく笑っていた。殺された13人の一時の快楽と引き換えに、男はマリという己の存在理由を永遠に失った。それでも、マリは微笑んでくれていた。

作業を終えた刑務官達が階段を降りていく気配がする。

--『仮の時間を与えられただけだったのだ』
闇に包まれ、男は再びそう思った。

ガタン!!
刹那、足下にあった存在が消えるのを感じた。男の最後の仕事は、終わった。






翌日の朝、田神は自分の革張りの椅子ではなく、応接用のソファに腰を沈めていた。向かいのソファには未だ酒臭い息を吐く加賀屋。それを気にも留めずに新聞を広げる。地元紙、北海道新聞の隅に、とある記事を見付けて目を留めた。チラリと加賀屋を見るが、眠っているのだろうか、背もたれにグッタリと寄りかかったまま動きもしなかった。田上は視線を新聞へと戻した。
--▼男性13人を殺害し、殺害・死体損壊などの罪で死刑判決を受けた『男』の死刑が、昨日未明、執行された。▼この『男』は今年初め、当時交際していた女性が暴行・殺害されたのを恨み、その加害者を次々と殺害。公判当初は弁護士により心身喪失とされたが、再三の精神鑑定で極めて正常であるとの診断を受け、その残虐性から有罪となった。控訴はしなかった。--
 田上は読み終えると、新聞をいい加減に畳んで加賀屋に放った。

 小木と菅井は、男の去った部屋を片付けていた。
もともと施設で育った為に身寄りが無かった男に、荷物らしいものは何一つ無かったが、行き場を持たない遺書だけが、二人の手元に残っていた。してはいけないと分かってはいたが、昨日男が書いていた、この世を去るための“誓約書”を広げた。
--僕にとってのこの人生は“仮の時間”でしかなかった。バーチャルに生きる事に何の意味があるだろう?僕は意識のある廃人よりも、意思のある死を望む。僕のリアルは、貴女と共に始まり、貴女と共に終わる。“仮の時間”の中で、貴女との時間だけが、僕にとっての“現実”でした。--
その後、小木と菅井の二人は警察署へ問い合わせ、その遺書を男のかつての恋人の墓前にと、マリの両親の元へと送った。



 彼らの日常が再び始まる。ただ、無意識の男によってそれぞれに与えられ、依存しかけていた時間を失くした事には気がつかずに。そして、彼らがそれに気付かぬままで居るように、彼ら以外の人間はあれだけ騒ぎ立てた男の存在すらも記憶から消していく。

これからの時間がただそうやって過ぎていくことにどんな問題があるというのだろう。誰が、今この時間の現実性を疑うだろうか。誰が、失くした物に気付き、仮の時間を生きるのだろうか。それを知る男の“時間”は、永遠に終わったのだ。

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