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朔 (櫻 朔夜)
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自己中30%・アルコール15%・思い込み20%・意欲35%,でも人生換算は120%(アホ

※イラストは某絵掲サイトにてQサマの線画に塗り・加筆させて頂いたモノです。
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小説お題

【起の文】 「なかなかうまいことを言いますね」
【結の文】 すぐ後から叫び声が聞こえた。


『聞いては、イケナイ』

著者:櫻朔夜 



「なかなかうまいこと言いますね」そう言って、男は鼻で笑いながらグラスを煽った。

 男は既に一杯引っ掛けた状態でこの店に現れた。千鳥足、とまでは行かなかったが、赤らんだ顔に着崩したスーツといった出で立ちで、吊るされた鈴を鳴らしながら重いドアを開けてやって来たのが数時間前…何度と無く仕事や妻の愚痴を溢しながらも、店の雰囲気が気に入ったの何のと居座り続けていた。
 対してマスターは、年齢の読めぬ顔立ちであった。年配と言えばそれらしく、歳若いと言えばそうとも見える。髭を蓄えた口元はよくは見えなかったが、恐らくそれは微笑んでいるのであろう、得体の知れぬ表情を浮かべていた。男の話にはよく相槌を打ってはいたが、自身から話を振ることはここまで全く無かった。

 暫く、男の一方的な話での遣り取りが続いた後、そんなマスターに何を思ったのか、男は少し厭味交じりにこう言った。
「しかしマスターは、ちっともご自分で話を為さらない。余程、明かしたくない事でも?これでは、幾ら雰囲気ありきでも、この店に全く客の居ない事情が察せられますな」
 自分が話してばかりいたもので、少しからかってやろうとでも思ったのかもしれない。しかし、それを聞いたマスターから返ってきた言葉は意外なものだった。
「いえ、私が話を致しますと、皆様必ずご不幸に合われるもので。ですから私は、話す事は控えさせて頂いております」
「そんな馬鹿な話があるものですか」
「それがあるのですよ。ただ、私は元来お喋りな方でして。言ってはならない事でも、つい話したくなってしまうものですから、こうして黙っていることにした次第なのです」
――「なかなかうまいこと言いますね」そう言って、男は鼻で笑いながらグラスを煽った。

 余りに静かな、電球のジジッと鳴る音まで聞こえそうな時間が過ぎていく。カウンターの頭上から下がるペンダントの電灯が手元を照らす中、客も居ないというのにマスターはそれから黙ったままグラスを磨き続けていた。ぼんやりと男はそれを眺める。何時の間にか何処かから蛾でも入り込んだのだろうか、時々黒い点状の影が灯りの中を忙しなく蠢いていた。
 そう言えば、と男は思う。随分話し続けていたからだろうか、今更この店には音楽すらも流れていない事に気がつく。コースターの上のグラスは、マスターによって常に赤ワインが注ぎ足されており、飽く事も無く飲んではいたが、それよりも先程のマスターの話がいやに気になり始めていた。聞くと不幸が降り掛かる話とは――?

 静けさと我慢の限界で、男が口を開きかけた時であった。
「そうでした、美味しいウィンナーとチーズがあるのですが、いかがです?」
 まるで男の口を塞ぐようなその唐突の申し出に、出かけた言葉が喉に痞え、驚いて咽せ込みながら男はやっとの事で応えた。
「ほう…それはいい。戴けますかな」

 数分後に男へと供されたそれらは、確かに美味であった。薄暗い店内でも、その色艶良い見目と食欲をそそる芳香は、暫くの間、気になる話を忘れさせるほどに男の五感を楽しませた。赤ワインとも、よく合う。時間も時間、男は相当に良い気分となっていた。
 男のグラスと皿が空になる頃、ボトルの中身が無い事に気が付いたマスターはワインセラーへ行く、とカウンターの奥へと消えていった。

 男は一人、静かな時間を持て余し、そこで始めて店内をぐるりと見回す。薄暗く、それでいて店内は相当に広い。何故ここに入ったのかよくは覚えていないが、海外映画でよく見かけるようなスナックや大衆パブと言ったところであろうか。むしろ、この様な店が、自分の行動圏内にある事すら知らなかった。
 重厚な木造のカウンターは胸の高さくらいまであり、それによく似合った作りの華奢な丸椅子。組まれた木目の美しい床の向こうには、少し暗い赤色をした座り心地の良さそうなソファで、これもまた木目調の美しい卓を囲んだボックス席が並ぶ。ダウンライトで鈍く照らされた壁の絵画は趣味もよく、今はともかく一昔前はかなりの客入りだったことが伺える。今はあまり座られる事も無くなったのであろうかなりの脚数の椅子やソファは、少し黴臭いような饐えた匂いが感じられた。

 と、その中からふわり、と甘い香りがする。カウンターへと向き直ると、マスターがワインの瓶を片手に戻ったところであった。キュ、とコルク栓を抜く音が静かなカウンターに響く。コースターの上には何時の間にか新しい冷えたグラスが置かれており、そこへマスターがワインを注ぐ。男は酔った頭の片隅で思った。ああ、この甘い香りはワインの香りだ、と。先程マスターが戻った時に香ったのも頷ける。黴臭さと慣れで掻き消されてしまっていたのか、その香りは新鮮な空気のように鼻を擽った。
 それが更なる酔いの手助けとなり、男は大胆になりつつあった。
「いい香りですな、このワイン。それに、つまみも美味しい。雰囲気も良い。それなのに、どうしてこの店に閑古鳥が鳴いているのか、皆目見当も付きませんな」
 本心からそう感じたのは勿論だが、男はマスターが口を噤んだ『あの話』を運良く聞き出せないだろうかと、遠まわしに崩しにかかっていた。
「私の店では、ワインは樽を購入して、地下で寝かせたものをお出ししております。ウィンナーもチーズも自家製なんですよ。ワインと料理、唯一の私の趣味なのです。もともとそれだけで始めたような店ですから……ともかく、お客様のお口には合ったようで、何よりです」

 マスターは丁寧にそれだけ答えると、相変わらずの不思議な表情で幾つ目かのグラスを磨き始めた。
「ねえマスター」
 男は媚びる様に話しかける。
「さっきの話、是非してみて下さいよ。どんな事なのか、気になるのですよ」
 マスターは顔を俯けたまま、いえ、ですからそれは…と、申し訳無さそうな上目遣いで男を見た。男はカウンターから身を乗り出すようにして、鼻先をマスターのすぐ目の前へ突き出して追い討ちをかけるように言葉を続けた。
「本当は、単純に話すのが苦手とか。それを隠す為の、ただの作り話なんじゃあないのですか?」
 今は俯いていた顔を起こし、男を正面に捕らえたマスターの顔が、ピクリとする。
「まさか図星ですか。不幸が起こるという話も、本当は根も葉も無い嘘なのでしょう?」

 男はそこまで言って、半ばカウンターに乗った恰好の体を椅子へと戻し、グイ、とワインを飲み干した。マスターはその様子をじっと見ていたが、ポツリと言った。
「本当に、聞きたいんですか?」
「ええ、お聞かせ願いましょう。不幸など起こらないと、私が証明しますよ」
 男は、まるで信じていないと言うように、笑いながら続ける。
「それに、もしもその話が悪い風評となってお客が来ないのでしたら、私が必ず、この美味い酒と料理を宣伝して差し上げますよ!」



 男の自信を持った姿にマスターはやっと話す気になったのか、自分もグラスを取り出して「ご一緒させて下さい…」と、二人分のグラスにワインを注ぎ、ゆっくりと話を始めた。

「実は、この店に訪れた方が行方知れずになってしまうことが多くございます…」

 行方知れずになる客、決まって最後に訪れていた場所がこの店であり、その後の消息がぷつりと途絶えてしまう。かと言って、警察がここに聞き込みに来ることは今まで1度も無かった。この店の立地も良くないのか、周りに他の店も無く、夜中ともなれば月夜と言えども張り付くような闇。目撃者など居るはずもなく、いつもお客が消えた事実を知るのは、行方不明のニュースであり、そのお客達に何が起こったのかは全く解らない。その為に胸を痛めており、店を畳もうかと思っている…

 マスターの話は大筋そのような事だった。どうせ嘘だろうと思いながら聞いていたはずの話だったが、男は薄ら寒い感覚を覚えていた。そんなもの起こる筈が無い事を証明する、とは豪語したものの、これから自分がこの店を出て無事に帰り付けるという絶対的な自信が揺らぎ始めていた。それに、落ち込んでいるマスターを、このままを独り置いて店を出るのも気が引けた。
 振り返り、窓の外を伺う。確かに、どこまでも広がる闇、であった。どんな魑魅魍魎、悪党がいるかも分からない。マスターに向き直ると、その心境を察してか、すまなく思っているのであろうマスターが、力無くグラスを啜っている所であった。男は無言でそれに倣った。

 数分後、男は再三の静寂に耐え切れず、奮い立たせるように明るく言った。
「まあマスター、今日は朝までやりましょうよ。そうすれば、そんな心配もいらないのだしね」
 マスターはそれを聞き、確かに、と大きく頷きいてボトルを取り出した。
「そうですね、そうしましょう!」

 それから、二人で一体どれくらいのボトルを空にしたのだろうか。大半は男が飲んでいたが、話さないと言ってはいても、久しぶりのお客に本音は嬉しかったのか、マスターもだいぶ口が滑らかになっていた。「そうだ、厨房とワインセラーをお見せしましょう」などと、当初からは想像もできない積極的なマスターの話しぶりに、だいぶ気を良くした男は「是非」と、快諾した。
 連れ立ってカウンターの裏側から厨房へと入る。薫製用のオーブンなどの置かれた少し広めの厨房を案内され、次に階下のワインセラーへと向かう。幾つかの樽が趣きたっぷりに据え付けられていた。手作りのストッパーからマスターの思い入れが伝わるようだ。それらが気に入ったらしい男は、「次回はきっと友人を連れてくるよ」と繰り返した。「お願いします」と、マスターも満更でもなさそうに答え、二人は不安を掻き消すように、旧知の如く笑い合っていた。

 一通りの見学を終え、縺れる足を支えられつつ、ワインセラーから厨房へと続く階段を昇る途中、男は思ったよりも自分が酔っている事にやっと気が付いた。
「おっと…」と、足を滑らせそうになる男を、案外強い力で引き上げながらマスターが言った。
「寝床を、ご用意しましょうか?心配もありますが、私も今日はこのまま外には出たくありませんし、このまま店におりますので…」



 暗い部屋の中、少し固いベッドの感触に男は目を覚ました。いつの間に眠ってしまったのだろうか、ベッドを用意する、というマスターの申し出に甘える事にしたのまでは覚えている。どうやらマスターがここへと運んでくれたらしい。悪い事をしたな、と溜息をつくと、暗い中からマスターの声がした。
「おや、起こしてしまいましたか?申し訳ありません…」
「マスターは…?」
「私も少し寝させて頂きました。少し早いですが、私は明日の準備がありますので、ゆっくり休んでいてください」
 ドアを開ける音。そして、部屋の外へと出て行く気配。
 男が、「有難う」とその背中に向けて声をかけるのと同時に、パタン、とドアが閉まった。

 それにしても、よく暗闇に慣れたマスターだ、と酔いの醒めない朦朧とする意識の中で男は思う。この暗さでは、ドアの位置も解らないだろうに…そう考えていた時、ふと、どこかから水音がしたような気がした。耳を済ませてみる。この部屋の中のようだ。
 まさか、何か物の怪の類でも居るのではあるまいか……男の背中を冷や汗が伝った。今しがた部屋を出てしまったマスターを、呼び戻すべきか否か。いや、大声を上げてはここに居る何かに気取られる心配もある…考えている間に、寒気で鳥肌が立つ。心なしか水音はベッドのすぐ真下に迫ってきていた。
 重たい体をそのままに、首を回して当たりに目を凝らす。が、何も見えない。意識を集中すると、どうやら顔を何かが覆っている。道理で暗いと感じた訳だ。酔って布団の上も下も分からなかったのか。恐怖で緊張した男は、その何かを取り去ろうと、そっと顔の上へと手を動かす。しかし、酔っているからという訳ではなく、それは叶うはずがなかった。




 手首から先は何も無く、生暖かな血が湯水の様に流れ出ていた。





 すぐ後から叫び声が聞こえた。
「だから聞かない方がいいと申し上げましたのに……」
 マスターは溜息をつきながら首を振る。しかしその憂鬱も、すぐ次の楽しみに取って代わる。

「宣伝などされては困りますからね…」と、フッと笑う。
 明日はまた格別のウィンナーが出来そうだ。



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